ダイナスティ 企業の繁栄と衰亡の命運を分けるものとは

ダイナスティ 企業の繁栄と衰亡の命運を分けるものとは

ダイナスティ 企業の繁栄と衰亡の命運を分けるものとは


目次

  • プロローグ

銀行

自動車

地の宝

  • エピローグ

いわゆる創業者とその一族が実質的な支配権を持つ企業を同族企業とか家族企業と言うが、経済学とか経営学ではあまり研究の対象としてみられることはない。それは家族企業が近代的なマネジメントや所有構造をもつ企業への過渡的な段階であると考えられているからだ。同族による支配は古くさく、効率性が低いと見られている。

だが企業は創業から時間がたつにつれて同族的な所有構造を失っていく*1ことは統計的な事実ではあるが、決して効率性が低いと言うことはない。むしろ逆に効率性や成長性が高い。

また、経済で重要なプレーヤーと認識されることが少ない割に、実際に全ての企業で家族企業の占める割合はどのくらいかと言えば家族企業は全企業の約60%をしめる。ほとんどは従業員が家族だけというような零細企業であろうが、中には家族所有の構造を保ったまま、世界的な企業に成長する例もある。このような事実を見るに現在の研究の文脈では家族企業の存在は軽んじられすぎているように思う。

本書はそのような家族企業に関して銀行業、自動車、石油などの業種のケーススタディを行っている。

内容に関する感想としてはケーススタディとしては比類のない精度とボリュームであり、読み物としてもかなり面白い。(というか縦書きなんでたぶん一般向けなんだと思う。)しかしケーススタディの常としてそれらはすべて個別事例の分析であり、統計的な事実としてどこまで一般化できるかどうかは疑問符が付く*2し分析しているのがいわゆる成功している(た)家族企業ばかりなので比率としては圧倒的多数派の零細家族企業については無視しているのも気になる。また個別事例の精査に重点が置かれているせいか家族企業研究一般としての疑問、例えば

  • 家族企業のパフォーマンスはそうでない企業と比べてどの程度違うのか
  • 成功している家族企業とはどのようなものか
  • 事業継承を成功させるためにはどうしたらよいのか

などの疑問に答えるために割いている分量は多くない。本書を購入したときの期待としてはむしろそっちのほうが大きかったのだけど。

まあとはいえ家族企業研究の取っ掛かりとしてはなかなか示唆に富む内容であるし、単純に事例について知らなかった知識が増えるという効能は捨てがたい。ちょっと家族企業に関する研究に関心が出てきているのでもう少し関連文献を探してみようかと思う。

*1:株式公開によって持ち株比率が希薄化することもあるし、跡継ぎをなす事がなく事業継承できないなど様々な理由がある。

*2:まあ著者はヒストリアンなのであまり統計的なことを求めてもしょうがないのかもしれないが